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2011年1月 3日 (月)

低標高地の小規模万年雪

                      
2007年5月31日

糸魚川市柵口の小規模万年雪
付.1986年の雪崩災害とその後に講じられた対策
                           
江柄勝雄 ( 942-0244上越市長岡新田10 )

日本農業気象学会 北陸支部大会 2006.11.11
日本農業気象学会北陸支部会誌 32:8-11 (2007)

1.文献に現れる小規模万年雪
  万年雪の定義はあまりはっきりしていないが(土屋,1999),国土地理院では9月期の状態で50m×50m以上のものを万年雪とし,決められた記号で地図に表示している。そこで,この発表では,地図に載っていないような小さなものを“小規模万年雪”と表現する。文献やインターネットでは次のようなものが見られる。
  ①糸魚川市柵口(旧能生町):柵口(ませぐち)には1986年1月に死者13名を出した雪崩があったが,その学術報告書に,雪崩のコース上に万年雪という表現がある(小林,1986)。ただし,この報告書の中では,著者により,大雪積(おおゆきづみ)という表現も見られる。また,能生町が発行した雪崩災害記録にも,万年雪と大雪積と双方の表現がある(新潟県能生町,1989)。更に,土木研究所のニュースにも万年雪という表現を見ることができる(秋山,2004)。なお,旧能生町の観光パンフレットでは,かつて万年雪を紹介していたというが,現在は掲載されていない。
  ②白神山地:標高500mのところにトラック1台分の“世界最小の氷河”がある(江川,2002)。
  ③利尻島鬼脇:ヤムナイ沢の標高300~400mの所に万年雪があり,秘境ツアーがでている(bakudanarchives,2004)。
 
2.柵口の万年雪
柵口の万年雪は,権現岳(標高1104m)の東斜面にある。頂上付近から約45°の急斜面があり,その下は地すべりブロックの再活動による凹地になっていて,そこに万年雪が堆積している(小林,1986)。標高は530mであり,集落からの道路距離は2.9km,標高差は260mである。かつては,地元住民が食品の貯蔵等に利用したという。また,最も高い所にある水田からの道路距離は1.3km,標高差は140mである。このように,集落および農業生産の現場から極めて近くにある万年雪として,柵口のものは他に例をみない特異なものと考えられる。万年雪の状態は以下のとおりであった。

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2005年:10月28日の万年雪の大きさは,長さ30m,最大幅20m,最大高さ7mで,推定体積は1000m3であった(写真)。なお,11月21日の推定体積は240m3に減少していた。

2006年:9月20日に3個の万年雪があり,合計の推定体積は3,880m3であった。前年とほぼ同時期の10月25日の状態は次のとおりであった。①南側(前年と同じ場所):長さ30m,最大幅20m,最大高さ4mで,推定体積は600m3であった。②中央:長さ15m,最大幅3m,最大高さ2mで,推定体積は60m3であった。③北側:長さ10m,幅1m,高さ0.7mで,推定体積は7m3であった。なお,11月8日の万年雪は2個で,推定体積は合計320m3であった。

3.1986年の雪崩
  柵口地区に1986年1月26日23時頃,最大速度時速180km,走行距離1800m,デブリ量10~30万m3と推定される大規模の表層雪崩が襲い,13名の死者が出る惨事となった(小林,1986)。既に述べたように,権現岳の東側は急斜面になっており,その下は凹地になっている。夏季にはここに集まった雨水は北に流出する。しかし,冬季にはこの凹地が降雪および急斜面からの雪崩で埋まり,その後の雪崩はまっすぐ東に流れ,集落を襲ったことになる。

4.その後に講じられた対策
1986年の雪崩で生じたような被害を再び被ることのないよう,次のような対策が講じられた(新潟県能生町,1989)。①誘導工:雪崩を被害が生じない方向へ誘導する。誘導堤および誘導溝。②減勢工:雪崩のエネルギーを減殺,減勢する。土塁および防護杭(群杭)。 ③防護柵:雪崩を透過減勢させ,集落手前で止める。 ④森林整備:ハンノキ,スギ,ケヤキ,クルミ等。
また,雪崩総合観測施設で雪崩の規模や発生状況を観測している。その結果,万年雪の近くでは最大積雪深560cm(2004~05年冬期),雪崩発生回数408回(2005年1~3月)を検知している(秋山ら,2005)
 以上のような対策が講じられたが,その後は大きな被害が出るような雪崩は発生していない。これは,能生(海岸線から4km,標高55m)で3m,田麦平(海岸線から10km,標高220m)で4mを超すような大雪が降っていないためと考えられる。

5.謝 辞
今回の調査にあたって,種々お世話になった地元柵口集落の皆さんに篤くお礼申しあげます。また,各種の情報やデータ入手にあたり,糸魚川市雪崩資料館(権現荘付置),新潟県企画調整部,新潟県糸魚川地域振興局,糸魚川市役所能生事務所,糸魚川消防署能生分署,中央農研北陸研究センターの皆さんにもご協力いただきました。ここに衷心からお礼申しあげます。さらに,土木研究所雪崩・地すべり研究センターの伊藤陽一博士には,雪崩全般についての特別なご教示と文献の紹介を賜りました。ここに深甚な感謝の意を捧げます。最後に,測量の手助けをしてくれた妻・直美に感謝の意を表します。

参考文献
1)  秋山一弥・武士俊也,2004:地震計を用いた雪崩検知と雪崩発生の特徴,寒地技術論文・報告集,19, 256-263
2)  秋山一弥,2004:試験地の風景 その3 能生町・権現岳,新潟試験所ニュース,No. 29:2,建設省 土木研究所 新潟試験所
3)  秋山一弥・花岡正明・武士俊也,2005:雪崩震動を利用した雪崩自動観測システム(4)-暖地性積雪地域における4冬期の雪崩発生記録-,2005年度日本雪氷学会全国大会講演予稿集,188
4)  bakudanarchives,2004:利尻島の万年雪,
    http://bakudanarchives.nobody.jp/
5)  江川正幸,2002:万年雪,http://www.aba-net.com/egawa/essey/essey32.html
6)  福嶋祐介,1987:新潟県柵口地区表層雪崩の流動解析,雪氷,49, 1-8
7)  気象庁,2006:気象庁月報(CD-ROM版),気象業務支援センター
8)  気象庁,2006:きのうまでのデータ,
    http://www.data.kishou.go.jp/etrn/index.html
9)  小林俊一,1986:新潟県能生町表層雪崩災害に関する総合的研究,自然災害科学特別研究突発災害研究成果,No.B-60-8.(この報告書には17氏による14の論文が掲載されているが,詳細は省略する)
10) 新潟県企画調整部,1999:新潟県降積雪及び気温観測 30年版 自昭和44年度 至平成10年度, 新潟県
11) 新潟県企画調整部,2000~2003:新潟県降積雪及び気温観測調査報告書 平成11~14年度,新潟県
12)  新潟県能生町,1989:能生町柵口雪崩災害記録 いわぼが走った,新潟県能生町
13) 土屋巌,1999:日本の万年雪 -月山・鳥海山の雪氷現象1971~1998に関連して-,古今書院

  • 追記(2012.11.20)
    2007年から2010年までの4年間は万年雪が残りませんでした。消滅した月日は以下のとおりです。
     2007年:8月31日消滅
     2008年:11月13日消滅
      2009年:9月24日消滅
      2010年:11月18日消滅
      2011年:11月下旬の残雪量は98m3
      2012年:11月下旬の残雪量は1500m3
  •   2013年:11月下旬の残雪量は350m3
  •   2014年:11月下旬の残雪量は20m3
  •   2015年:11月下旬の残雪量は600m3
  •   2016年:9月5日消滅
  •   2017年:11月1日消滅
  •  2018年:9月6日の残雪量は,左側1600m3,右側36m3
  • Dsc06721b


 

現地配布資料はhttp://egakatsu.life.coocan.jp/pamph7201.pdf

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